既にその商品やサービスに対して、商標が登録されていると知りながら、同じ商品やサービスでその商標を使うことは、明らかなる商標権の侵害ですが、商標権の侵害をめぐる争いの多くは、以前からその商標を使っていた提供者に対して、後発で商標登録した提供者が、その使用の中止を求めるものとなります。
そういった点では、前もって商標登録をしておくことは大切ですが、審判結果をみると明らかに恣意的に真似たもの以外は、以前からの商標使用者がその商標の使用を差し止められていません。
それは、商標権が、商品やサービスごとに与えられるものであり、その指定を外れると権利を有しないことからです。
例えば、飲食物の提供というサービスとして、Aという商標登録を行って店舗を展開している供給者が、鉄工所の名称Aに対してその商標の使用を差し止めることはできません。むしろ反対に、鉄工所の経営者は、鉄鋼業、もしくは商品である製鉄に対してAという商標登録を行えば、商標権が発生します。
これは、極端な例えですが、実際に、同じ商品を扱っているにも関わらず、飲食物の提供業務と宅配業務とで、同じ商標の使用が認められた判例があります。
このようなことを防ぎ、商標自体を確固たるものにするためには、関わるであろう商品、サービスに対して、全て商標登録をし、商標権を手に入れておかなければなりません。
指定商品やサービスは、膨大な数に上り、何かを包括した「~の業務全般」といった指定方法はできません。商標登録は1件につき10年間で38,000円程度ですので、10種の商品やサービスについて商標権を獲得すれば380,000円、特に扱う商品が多いブランドなどであれば、商品の種類だけ商標権を獲得する必要があります。それだけ、費用は膨大なものとなります。
しかしながら、より強固なブランドを確立しようとするならば、これらの商標権の獲得にかかる費用は、必要経費として惜しむべきものでは無いのかもしれません。